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  雨乞い臼石

佐久の大日向は、抜井川ぞいの谷間にある。
 ある年、ひどい日照でりがつづき、この谷間の村びとたちをこまらせていた。
「土がカラカラで、作物がかれてしまうぞ」
「みんなで雨乞いしやしょ」  
村びとたちは、十石峠にのぼって、火をたき雨乞いをした。
「天の神さま、峠の神さま、雨を降らせておくんなんし」
 しかし、立ちのぼる黒煙が、頭上の青い空をひとときくもらせたが、降ってきたのはホコリだけだった。  

そこでこんどは、もっと天に近い茂来山へのぼって、頂から谷間に酒をそそいで、雨乞いをした。
「天の神さま、山の神さま、雨をふらせておくんなんし」
 しかし、注いだ酒のにおいが、ふきあげる谷風にのって、天へたちのぼっていったが、雨は降ってくれなかった。
「抜井川の水も細くなっちまったぞ!山の草木もよわってきたぞ」
「作物や木だけじゃねえ。飲み水もなくなって、おらとも干ぼしになっちまうぞ」

 村びとたちは、ほとほとこまり果て、つかれ果ててしまった。  
そんなある日、峠をこえて、一人の行者がやってきて、庄屋の家に足をとどめた。
 ききつけてあつまってきた村びとたちが、おねがいした。
「行者さん、行者さん、いいとこへおいでなすった。いくら雨乞いしても、雨降らねえでこまっておりやす。雨を降らせるいい手をおしえておくんなんし」
「そりゃおこまりでしょう。わしがくだってきた峠の草木も、このままではかれそうでした。いちだいじです。」
 行者は、外へ出て、抜井川が流れくだる川上に向かい、目をとじ、手を合わせてじゅ文をとなえはじめた。
村びとたちは、かたずをのんでじっときいていた。
 やがて行者は、おもむろにいうのであった。 「峠に続く道が、川にせまっているあたりに、臼のような石がござらっしゃろ」と。
「はい、臼石とよぶめずらしい石でやす」
「天狗の餅つき臼でやす」  
みんなは身をのりだし、行者のつぎの言葉のでるのをまった。
「あの石にたまっている水をまいて祈れば、きっと雨が降ってくれるじゃろ」
 行者は、きっぱりというのであった。

「行者さん、行者さん、あの石ぁ天狗さまの餅つき臼だっていわれて、わしら子どものころから、ちかづかねえよう、さわらねえようにしてきた石でやす」
「雨降らせてくれるのは、ありがてえでやすが、天狗さまにおこられねえでやすか」
「たたりがおっかねえでやす」  
みんなびっくりして、そういうのだった。
「なに、天狗どんもおこるまい。この日でりじゃ、天狗どんもこまってるじゃろ。山の木がかれちまったら、天狗どんもこまらっしゃるにちがいない。
さあ、みなさん、いっときも早いほうがよい、雨乞いにいきましょう」
 行者はニコニコしながら、そういい、村びとたちをうながした。
「行者さんのいわれるとおりじゃ。さあ、みなの衆、臼石に雨乞いにいきやしょう」  そういう庄屋と行者を先頭に、村びとたちは臼石に向かって歩きだした。

 さて、臼石の上の道までくると、行者は下の川っぷちへずんずんおりていった。
村びとたちもつづいておりた。  
そこに臼石がどかっとすわっていた。
「みなさん、ごらんなさい……。この日でりでも、臼の穴には水がたっぷりたまっておりますぞ」
「ほんとだに、よくすんだ水がいっぱいたまってるにー」
「天狗の餅つき臼だっちゅうが、ほんとにいい臼だいね」
 みんなは、臼石をとりかこみ、口々にいうのであった。
「さあ、こうしなされ!」
 行者はじゅ文をとなえながら、両手でひしゃくをつくって、臼の水をすくいあげると、思いきり空に向かってとび散らした。
あがった水は、雨のようにみんなの頭上にふりそそいだ。
「さあ、みなさんもこうしなされ!」
といって、行者はお経をとなえはじめた。  

すると、行者のまん前にいた一人が、行者を見、右を見、左を見て、ためらったあと、ちょっと
「天狗様、ごめんなせえ」
とつぶやいて、恐る恐る行者がしたように、臼の水をすくい、とび散らし、雨のように降らした。
 こうして一人がやりはじめると、みんなが、つぎつぎとこれにしたがった。
 みんなは、行者のお経にあわせて、
「天の神さま、山の神さま、雨おwふらしておくんなんし」
と、われをわすれて、となえ、祈りつづけた。

 どのくらいたっただろうか。臼に水もなくなってきた。
村びとたちも、降り散らした水でびしょぬれになった。
「さあ、庄屋さん、お祈りはこれまでといたしましょう」  
行者が庄屋に声をかけた。
「皆の衆、臼の水もなくなりやした。そろそろもどりやしょう」  
庄屋にそういわれても、しばらくぽかんとたちつくしていたが、やがてわれにかえった村びとたちは、
「天狗様、ありがとうござんした」 といって頭をさげ、ポツリ、ポツリ……と臼石のそばをはなれはじめた。
 みんなは、満ちたりた気分で、谷間の道を集落(むら)に向かって歩いていた。
 落合橋のあたりまできたころ、
「わあ!空がくもってきたぞ!」
と、だれかがさけんだ。  
みんなが、いっせいに空を見上げると、いつのまにやら、空が黒くくもっているではないか。
「ほんとだ、ほんとだ」  
そうこうしているうち、大粒の雨が降ってきた。
「雨だ!」 「雨だ!」
「臼石さま。ありがとうござんす」
「行者さんのいうとおりだわい。ありがとうござんす」
 みんなは、かん声をあげ、上を向いて、雨がビシャビシャ顔をうつのもかまわず、歩いていた。
 行者はいつのまにやら、村びとたちのしんがりになっていた。
 雨はたっぷりと降り、作物や草木をよみがえらせた。村びとたちに生気がもどった。
 このことがあってから、村びとたちにこわがられていた「天狗の餅つき臼」は「雨乞い臼石」として、村びとたちにたよりにされ、したしまれるようになった。

(旧佐久町 大日向)


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